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変わりゆくマカオカジノ業界の現状

「変わりゆくマカオカジノ業界の現状」の概要

アフターコロナ到来でマカオカジノの売上はどうなったのか?低迷していた売上がどのように回復したのかを解説する

アフターコロナ到来

マカオでは、2020年2月から新型コロナ防疫対策の一環として、入境制限を含む水際措置が講じられた。「ゼロコロナ」と呼ばれる厳格なもので、インバウンド依存度の高いカジノ業界を含むツーリズム業界は大打撃を受けることになった。マカオがゼロコロナ政策にこだわったのは、中国本土と歩調を合わせることで同じバブルの中に入り、一定の条件下で隔離検疫免除での相互往来を維持するためとされた。とはいえ、中国本土では現居地にとどまることが基本とされたほか、訪マカオ許可(ビザに相当)の発給制限などもあり、マカオではインバウンド旅客数が激減。2020〜2021年のカジノ売上はコロナ前2019年の2〜3割に低迷した。さらに、2022年は中国本土でオミクロン変異株の流行が拡大し、各地で大規模なロックダウンが出現し、マカオでも準ロックダウン措置が講じられるに至り、中国本土との相互往来も断続的にストップ。結果、カジノ売上は2019年の1割台にまで落ち込み、16年ぶりに「世界最大のカジノ都市」からの陥落を余儀なくされた。
なお、中国本土とマカオでは2022年12月から段階的にウィズコロナへの転換が進み、2023年1月8日に完全正常化するという急展開をみせ、丸3年にも及んだコロナ禍はなんともあっけなく終了。以降、アフターコロナでマカオのインバウンド旅客数は順調に回復し、年末まで勢いを維持。2023年のカジノ売上についても1830.59億パタカ(約3.2兆円)に上り、一気に2019年の6割超まで戻した。そして、2年ぶりに世界一のカジノ都市の座へ返り咲くこととなった。
昨年、カジノ売上の本格的な回復が見受けられたのは3月以降のこと。4月終了時点で早くも前年通期の実績を上回り、10月終了時点で政府が財政予算で設定した年間カジノ売上目標の1300億パタカ(約2.4兆円)を達成。月次データを参照すると、3月から本格的に回復が進み、特に夏場以降に加速した模様。政府は市場の回復が進む状況を受け、今年の財政予算でカジノ売上目標を引き上げ、2160億パタカ(約3.8兆円) とした。これによってようやくマカオの歳入の大半を占めるカジノ税収が通常レベルに復帰し、昨年を含む4年間にわたる赤字収支から脱却できる見通しとなっている。
なお、昨年のインバウンド旅客数は約2823万人で、2019年同時期の約7割まで回復。カジノ売上の回復率を大きく上回って推移した。インバウンド旅客数とカジノ売上の回復には相関関係があるとされるが、マカオ政府は今年もインバウンド旅客誘致に力を入れて取り組む考えを示しており、2019年実績に少しでも近づけば、カジノ売上の目標達成も視野に入るだろう。昨年のインバウンド旅客数とカジノ売上の回復ペースに差が生じた理由については、カジノを目的としない旅客の割合が増えているとの指摘もあり、旅客のダイバーシティ化が進んだことと関係しているとみられる。


直近2年間のマカオのカジノ業界における最大のトピックは改正カジノ法の施行と新カジノライセンスのスタートだろう。この2つは基本的に連動している。
マカオのカジノはコンセッション制度に基づき運営されているが、2023年1月1日から新たなコンセッション( 新ライセンス) がスタートした。事業者の顔ぶれは以前と同じだ。ゲンティンが新規参入に名乗りを挙げたものの、敗れている。
マカオの通称「カジノ法」( 娯楽場幸運博彩経営法律制度) は、以前のカジノコンセッションのスタート時期にあたる2001年に制定されたもの。コンセッションの満期が近づく中、政府は20年の間にカジノ業界はもとより、経済・社会状況も大きく変化したことを踏まえた見直しを行う必要があるとし、次期コンセッションの入札に合わせて改正を実施した。
契約期間は以前の半分の10年間としたほか、コンセッション事業者に対して政府が目標として掲げる経済多元化や地域社会への貢献がより多く求められるようになり、ゲーミングテーブル及びマシンの総量制限の導入(テーブル6千台/マシン1.2万台)、審査結果をベースにしたゲーミングテーブル配分の見直し、いわゆる衛星カジノやジャンケット事業者に絡む規制、カジノ税の減税対象(最大5%)となる外国人専用フロアの設置といった多岐にわたる変更や追加が盛り込まれ、注目を集めた。ジャンケット事業者に関する詳細は後述する。
コンセッション事業者の数と顔ぶれは変わらず新鮮味はないように見えたかもしれないが、以前は本ライセンスの3社にサブライセンスの3社がぶら下がる特殊な形態(SJM >MGM、Wynn > Melco、Galaxy> Venetian) だったところ、新コンセッションでは本ライセンスが6枚となり、各社がそれぞれ政府と直接契約を結ぶことに変更。政府は事業者選定において、(中国本土以外の)海外からの誘客計画、運営経験、マカオ経済にメリットをもたらすカジノ及びノンゲーミングプロジェクトへの投資計画、カジノ施設内における違法行為に対する監視・予防策、社会的責任の履行のほか、改正カジノ法に規定された国家安全要件との符合を考慮するとした上、特に「ローカルスタッフの雇用の安定確保」、「海外旅客ソースの開拓」、「ノンゲーミング要素の発展」を3大重点評価項目として挙げた。審査結果について、点数は非公開とされたものの、総合評価順は発表され、1=MGM Grand Paradise Limited、2= Galaxy Casino CompanyLimited、3= Venetian MacauL imited、4 = Melco Resor t s(Macau) L imited、5= Wy n nResor ts (Macau) Limited、6=SJM Resorts, Limited となった。ゲンティンは7番手。以前はサブライセンスだったMGM とMelco が“下剋上”を果たす一方、1962〜2002年にかけてマカオのカジノライセンスを独占していたSTDM をルーツに持つ老舗のSJM が最下位に沈んだ。STDM 創始者として知られる「カジノ王」スタンレー・ホー氏が2020年5月に亡くなってまだ間もない中だが、下克上組のMGM とMelco を率いるのがその娘(パンジー・ホー氏)、息子(ローレンス・ホー氏)だったというのは、なんとも数奇な出来事だろうか。SJM についても娘(デイジー・ホー氏)が継承しており、依然としてホーファミリーが6枚のライセンスのうち半数を握る状況は全く変わらず、少なくとも今後10年間はプレゼンスを維持していくことになる。


なお、改正カジノ法と新コンセッションのスタートにより、審査で最高評価を受けたMGM がより多くのゲーミングテーブル数を獲得して市場シェアを大きく伸ばしたほか、衛星カジノのクローズが相次ぎ、VIPルームはコンセッション事業者の直営が主となるといった変化があった。外国人専用フロアについては、直営VIP ルームに類する方式で運営されているのを確認しているが、現時点で統計資料が存在しないため、売上に占める割合やオペレーターにとっての減税効果は未知数だ。これまでのところマカオのインバウンド旅客における国際旅客の戻りは遅れており、シェアは10% 未満にとどまるため、全体の数字に大きく影響するほどにはなっていないと思われる。関係者に聞くと、東南アジアからの旅客が主となっている模様だが、5% の節税効果が大きいこと、また政府が掲げる国際旅客誘致ともマッチするため、今後各事業者が力を入れてくることが予想される。

ジャンケットをめぐる経営環境が激変

かつて興隆を誇ったマカオのカジノ仲介業(いわゆるジャンケットプロモーター)だが、カジノ売上のマスシフト、2021年末の大手事業者サンシティトップの逮捕、コロナ禍、改正カジノ法による規制強化など、近年は大きな逆風にさらされ、経営環境は厳しさを増すばかりだ。マカオのカジノ規制当


CASINO japan Vol.32に掲載中!

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