カジノIR

公開日:

マカオカジノ業界大変鯢

「マカオカジノ業界大変鯢」の概要

マカオのカジノ業界は、21世紀初頭に長く続いたモノポリー体制から脱却し、かつての独占企業STDMを源流とするSJMホールディングスに米国や香港資本の新規参入組を加えた6陣営体制でラスベガス型の統合型リゾート(IR)志向へと大きく舵を切った。

新型コロナウイルス感染症の世界的な流行とその長期化によって、マカオのカジノ業界も大打撃を受けている。 厳格な水際措置が講じられたことでインバウンド旅客数が激減し、その大半を中国本土からのインバウンド旅客に依存するカジノ売上も当然ながら大きく落ち込んだ。 ただし、マカオと中国本土では比較的早い時期にコロナの封じ込めに
成功。 両地の間では、 2020年第3四半期以降に往来制限の緩和が進み、 同年第4四半期には条件付きながら隔離検疫免除での相互往来再開が実現する。 これを受け、 中国本土からのインバウンド旅客数が緩やかな回復に転じ、 カジノ売上にもポジティブな影響が及んだ。 2020年のカジノ売上は前年比79.3%減の604.41億パタカ(約8557億円) にとどまったが、 2021年は8月終了時点で早くも前年越え、 記事執筆時点の最新データとなる11月終了時点ではインバウンド旅客数が前年同期比31.8%増、 カジノ売上は49.9%増の789.01億パタカ(約1兆1171億円) に。 インバウンド旅客数を上回るペースでカジノ売上が回復するなど、 一見すると順調に見えるが、マカオ政府の2021年度 (1〜12月) 財政予算における年間売上は1300億パタカ (約1兆8405億円) で、12月を残すのみとなった中 (*2021年12月下旬の記事執筆時点)、 予算達成は困難とみられる。 予測と大きく乖離した要因として、2021年に入って以降、中国本土及びマカオにおいて散発的なデルタ変異株の市中感染確認例が出現し、一時的に水際措置が強化されたことが複数回あり、 それがたまたま観光シーズンに重なる不運もあって、 想定していた右肩上がりのインバウンド旅客数の回復ペースが維持できなかったことが挙げられる。 マカオ政府は2022年の年間売上予測についても1300億マカオパタカに据え置いた。 目下、 中国本土、 香港、 マカオの三地の間で隔離検疫免除での相互往来を実現すべく調整が進められており、 これが実現すればインバウンド旅客数、 カジノ売上とも底上げ効果が期待される (マカオのインバウンド旅客数に占める割合はコロナ前で中国本土7割、 香港2割) が、 2021年同様、 想定外の事態が発生しないとも限らない。 2022年は期待と不安を抱えてのスタートとなる。

マカオ政府とカジノ経営契約 (コンセッション) を締結する6陣営の業績も、 カジノ売上の低迷によって苦戦を余儀なくされ、 2020年度 (1〜12月)は軒並み赤字決算となった。 2021年度については、 カジノ売上の回復に比例して各指標は上向きつつあるようだが、 依然としてコロナ前水準とはほど遠い。 最新の2021年第3四半期の監査前業績 (日本円概算) は別表を参照いただきたい。 社によって発表項目が異なるため単純比較はできないが、 昨対で売上及びEBITDAが大きく改善していることがわかる。
コロナ禍にあって、 6陣営とも生き残りのため徹底したコスト抑制を進めてきたが、 既存施設のリノベーション及び拡張計画、 新規建設計画は、 若干の遅延こそ生じたものの、 着々と進められている。 2020年2月にはサンズ・チャイナの 「ザ・ロンドナー・マカオ」(IR施設 「サンズ・ コタイ・ セントラル」のリブランド)、 2021年夏にはSJMによる新IR施設 「グランド ・ リスボア・パレス」がそれぞれオープン。また、ギャラクシー ・ エンターテインメントでは旗艦IR 「ギャラクシー ・ マカオ」 の第3、 4期拡張工事、 メルコ ・ リゾーツでも大型IR 「スタジオ ・ シティ」 の第2期拡張工事が進む。 6陣営は、 いずれもマカオの将来性をポジティブに評価するコメントを発している。 2021年第3四半期業績業績に合わせて発表された各社のコメントを囲みの部分にまとめている。

相次ぐ「カジノ王」の死

コロナ禍で業界が苦戦を余儀なくされ る中、「カジノ王」 と称され た二人の大物が相次ぎこの世を去った。STDM、SJMなどを率いたスタンレー ・ ホー氏(2020年5月没、享年98歳)とラスベガス ・ サンズグループ創業者のシェルドン ・アデルソン氏(2021年1月没、 享年87歳)だ。いずれも一代で巨大カジノ企業を築き上げ、 現在のマカオのカジノ業の発展の基礎を造った人物で、 後世まで語り継がれる数々の実績と伝説を残した。コロナ禍という特殊事情により、大規模なセレモニーなどは開催されず、ひっそりと姿を消すかたちとなったが、 その功績が色褪せることはない。今後、 この二人のごとく壮大な夢を語り、 そして時に剛腕を振るって本当に実現させてしまう想像力と行動力、 さらにはカリスマ性を併せ持った次世代のカジノ王は出現するのだろうか。
近年、 風雲児の如く業界での存在感を強めていたカジノ仲介業 (いわゆる「ジャンケット」)大手サンシティ・グループの創業者、アルヴィン・ チャウ氏が次世代カジノ王候補として注目されていたが、直近で出現した大きなうねりに呑み込まれる形で脱落した。本件については後述する。
マカオのカジノ産業は、 約20年間の成長期を経て、成熟期に入ったとされる。急成長を牽引した豪傑2人の死は、 新たな時代の幕開けを象徴する出来事として、コロナ禍とともにマカオのカジノ史に刻まれるはずだ。

満期が迫るコンセッション

マカオのカジノオペレーター6陣営のコンセッション満期日が2022年6月26日に迫りつつある。次期コンセッションについて、マカオ政府はかねてより既存契約の延長ではなく再入札を実施するという方針を一貫して示してきた。2019年12月にマカオの首長にあたる行政長官が代わったのを機に、新政権下で次期コンセッションに向けた本格的な準備がスタートした。コロナ対応を優先する中で当初想定スケジュールから遅延が生じたとされるが、現行コンセッション満期まで1年を切った2021年9月になって、娯楽場幸運博彩経営法律制度(通称「カジノ法」) の改正に関するパブリックコメント(意見公募手続き) 実施という具体的な動きがあった。同法は現行コンセッションのスタートにあたり2001年に制定されたもので、マカオのカジノ業界はもとより、マカオ経済・社会状況についても大きな変化が生じた現状を踏まえての改正案が示された。最も大きな関心事ともいえる契約事業者数( ライセンス発給数)、コンセッション期間、入札スケジュールに関する具体的な数値への言及はなかったが、政府代表の派遣や利益処分にあたり政府の承認を必要とすることなどを含む「政府による管理強化」が盛り込まれ、これをネガティブに受け止める報道も目立った。ただし、6陣営は受け入れられるものだとして冷静な反応を示している。マカオの歳入に占めるカジノ税収の割合は約8割(コロナ前)、カジノ・カジノ仲介業従事者の数は就業人口の17%に上り、間接的なものも含めれば、多くのビジネスがカジノ産業に依存している。

カジノオペレーターのマカオ経済・社会におけるプレゼンスは現行法が制定された20年前とは比べ物にならないほど大きくなり、その公共性という意味では、相応の社会的責任を求められることは当然であるということになろう。他にも、改正法では従業員保護、ノンゲーミング要素の推進、刑事責任及び行政処分制度の明確化などを重点ポイントとして挙げている。

新開業の旗艦IR施設 グランド・リスボア・パレス 活かして観光市場回復を牽引

SJMホールディングス 副会長兼CEO

アンブローズ・ソー

「2021年第3四半期は、7月30日にコタイのグランド・リスボア・パレスがオープンし、弊社の歴史において大きな節目となった。依然として新型コロナの流行が続く中、マカオへの観光客の流れが大きく妨げられ、弊社も影響を受けたが、第3四半期及び1〜9月累計の業績は2020年から改善している。弊社のノンゲーミング要素と才能あふれるスタッフの充実により、今後数年間かけてマカオ観光市場がリカバリーを果たすにあたって貢献できる準備が整ったと確信している。」

CASINO japan Vol.31に掲載中!

続きは雑誌でご覧ください

casino japan

この記事の監修者

日本で唯一のカジノ専門誌「CASINO japan®」の発行主として、日本のカジノIR業界の情報を毎日発信しています。

王なき新時代到来!のキーワード

MAGAZINE NOW ON SALE

  • 日本人の知らないカジノVIPの世界

    カジノVIPルームは2つ存在している。知られていないその世界を読み解く

  • 日本のポーカー事情

    ポーカー人口はすでに100万人を超えており今後も市場が拡大する。空前のポーカーブームを取材

  • 韓流カジノが面白い

    日系の最強カジノIR「パラダイスシティ」は最上級リゾート!その内容に迫る