マカオのカジノ業界では、中小事業者の株価が大きく上昇している一方、大手事業者では伸び悩みが見られている。1回数百ドル~数千ドルほどの賭けをするプレミアムマス層からの収入に注力している中小事業者が、その恩恵を受けている形だ。プレミアムマス層は、カジノ以外の分野でも売上に寄与しており、これは産業の多角化を目指す当局の意向とも合致している。
小規模カジノ躍進の影で業界大手が苦戦
マカオ政府発表のデータによれば、2024年5月までのカジノ来訪者数は、コロナ禍前の2019年の約75%まで回復し、今年度のカジノ収入は2019年比80%と予想されている。
しかし、マカオの全てのカジノの業績が一様に改善しているわけではなく、業界の中でも明暗が分かれている状況だ。
比較的小規模な事業者のMGMチャイナおよびウィン・マカオで、年初来の株価がそれぞれ46%、15.7%と上昇している一方で、業界大手のギャラクシーは11.2%安、サンズ・チャイナは16.7%安と伸び悩んでいる。
この背景にあるのは、マカオを訪れている客層の変化だ。
現在のカジノ客の中心は、1回当たりの賭け金が数百ドル~数千ドル前後の「プレミアムマス」層となっている。
かつてのカジノは、売上の大半を「VIP(ハイローラー)」層に頼っていたが、中国政府によるギャンブル規制の強化もあり、VIP層の客足は減少している。
また、最も賭け金が少ない「マス(大衆)」層の来訪数も、まだ2019年の水準まで戻っていない。
しかし、プレミアムマス層がメイン顧客のMGMチャイナ、ウィン・マカオは、客足の回復によって恩恵を受けている。
特にマカオ全体のカジノ収入において、MGMチャイナが占める割合は、2019年の9.5%から今年17%超に上昇。同社は、2023年以降に政府からテーブル数増設を認められた唯一の事業者でもあり、宿泊施設の拡張にも着手している。
大手カジノ側も、これに猛追する姿勢を見せている。ギャラクシーでは2025年に高級ホテルの営業を開始する予定で、プレミアムマス層からの需要拡大を狙っている。
マカオ最大のカジノ事業者サンズ・チャイナも、客単価収入はコロナ禍前を上回っていることをアピールしており、全体の客足が増加すれば恩恵はさらに大きくなると見込んでいる。
カジノ依存からの脱却を目指すマカオ
マカオにとって、プレミアムマス層の流入増加は、カジノ以外の売上強化という面でも重要だ。
マカオ観光局によれば、2023年の非カジノ関連の消費支出額は710億パタカ(88億2000万ドル)に上り、19年比で11%増加している。
マカオでは域内総生産の約60%をカジノ関連収入が占めているが、今後中国本土の景気減退の傾向が強まれば、その影響がマカオやカジノ業界にも及ぶことが予想される。
そのためマカオ当局も、ショッピングや美術館、各種ショーなど、様々な分野で産業構造の多角化を目指しており、各事業者もカジノ以外の娯楽を強化することで、幅広い客層の呼び込みを狙っている。
富裕層がもたらしてくれる収益に頼れなくなった現在、消費活動の活発なプレミアムマス層をどれだけ取り込めるかどうかに、マカオ経済の成長が懸かっていると言えそうだ。